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インタビュー

現代人に不足しがちな
「n-3系不飽和脂肪酸」
と「中鎖脂肪酸」

一般社団法人臨床栄養実践協会理事長
せんぽ東京高輪病院名誉栄養管理室長 足立香代子

油は肉や魚、乳製品、植物など様々な食品に含まれていますが、それぞれの油により構成する脂肪酸が異なり、複数の脂肪酸で構成されています。食べ物の好き嫌いなどで偏った食生活を続けていると、食事から摂れる脂肪酸も偏りが生じてしまいます。これまで数多くの栄養指導を行ってきた足立香代子先生より、積極的に摂取したい脂肪酸、そしてそのなかでも足立先生が注目する「中鎖脂肪酸」について、お話をうかがいました。(2017.1.13インタビュー②)

インタビュー

意識的に摂取してほしい脂肪酸は
「n-3系多価不飽和脂肪酸」と「中鎖脂肪酸」。

脂肪酸には、おもに植物性の油に含まれるリノール酸やオレイン酸をはじめ、おもに肉に含まれるステアリン酸やアラキドン酸、おもに乳製品に含まれるパルミチン酸など数多くの種類が存在します。そしてこの脂肪酸の種類によって、からだに対する働きも異なります。
その中でも、意識的に摂取してほしい脂肪酸が二つあります。その一つが、魚の油として有名なDHAとEPA、エゴマ油や亜麻仁油に含まれるα-リノレン酸など「n-3系多価不飽和脂肪酸」と総称される脂肪酸です。そしてもう一つが、ココナッツ油やパーム核油に多く含まれる「中鎖脂肪酸」です。n-3系多価不飽和脂肪酸は血流の改善作用があり、中鎖脂肪酸は内臓脂肪をためないことが確認されています。これらの作用は現代人に有効と考えられるため、特に意識して摂取していただきたい脂肪酸です。

「中鎖脂肪酸油(MCT)」など、
油をうまく取り入れて健康管理を。

私が現在最も注目している油が、中鎖脂肪酸だけを含む「中鎖脂肪酸油(MCT)」です。MCTは、一般的な脂肪酸とは代謝経路が異なるため、効率よく分解されてエネルギーとなり、脂肪として蓄積されにくいのが特徴です。このため、MCTは胃もたれを起こしにくく、食が細い高齢者の低栄養対策に最適な油です。また私も40年以上前から医療現場で使っており、エネルギーが必要な未熟児や腎臓病の患者さん、脂質や糖質を吸収できないすい臓病の患者さん、てんかんの治療などにこのMCTを使用してきました。このMCTが近年、改めて注目を集めています。その理由がアルツハイマー病の予防や改善に働く可能性があることがわかってきたためです。
脳のエネルギー源はブドウ糖ですが、高齢になると脳でブドウ糖をうまく利用できなくなり、アルツハイマー病になるとそれが顕著になります。こうした状態でブドウ糖の代替エネルギーとして利用されるのが「ケトン体」です。中鎖脂肪酸はこのケトン体を多く産生するため、健全な脳を保つことに寄与できることがわかってきました。またケトン体はブドウ糖とは異なり、がん細胞がエネルギーとして利用できないため、がん細胞の増殖を手伝わない点も評価されています。
私の母親は90歳を超え、若干の認知症を患っています。あるとき腰痛による痛みが原因で体重が1ヶ月で6kgもやせてしまいました。少食で体重が回復しないため、MCTを味噌汁やごはんなどに加えてみたところ、体重が回復して元気に歩けるようになりました。さらに体重が減ったときには筋力がおち、むせが増え、直近のことも記憶できなかったのですが、いまでは歩くこともでき、飲み込む力も付き、なんとかまだ1人で暮らしています。記憶の程度は体重があるときと同じ程度に戻り、まさにうれしい驚きでした。
日本は長寿世界一を誇っています。これは大変すばらしいことですが、長寿といっても認知症や寝たきりが増えるのは悲しいことです。特にアルツハイマー病は何歳から予備群になるかわからないため、早いタイミングから準備するに越したことはありません。私は50歳くらいから予防を考えたほうがよいと思います。両親はもちろん自分自身の健康管理のために、中鎖脂肪酸油(MCT)を積極的に活用してみてはいかがでしょうか。

<コラム>
栄養学の進化とともに、その価値が見直されてきた油。

栄養学は進化を続け、それまでの常識を覆すことがあります。例えば、「飽和脂肪酸」と呼ばれる油がひとくくりにされて、動脈硬化の原因になるのではないかといわれていました。しかし、現在の栄養学では否定されています。また、主食をまったく食べない極端な方法は問題ですが、脂質やたんぱく質を増やし、糖質をある程度制限することは健康によいと考えられるようになりました。
栄養学の常識が変わり続けているなか、それが医療の現場ですら知られていないことがあります。代表例が糖尿病の食事指導です。糖尿病の食事指導では“カロリー制限”が目的とされています。そのためにまずカットされるのが油で、サラダドレッシングはノンオイルドレッシングを使います。しかし、一般的にノンオイルドレッシングは糖質が多く、それを糖尿病患者に提供するのは問題です。本来は“カロリーを減らす”のではなく、脂質やたんぱく質をバランスよく増やして、食べ方を工夫しないといけません。
また、高齢者の患者に提供されている「おかゆ食」にも疑問が残ります。おかゆは水分が多いため、栄養価が低い上、量も食べられません。さらに、おかずとして鶏肉のささみなど低カロリーのものが出されることが多く、低栄養を招く可能性すら考えられます。このおかゆ食は、戦後まもない頃、大規模な手術後に体力を回復するための食事として編み出されたものでした。この食事を、目的が異なる高齢者にあてはめていることが問題です。高齢者の低栄養は近年問題とされているサルコペニア(筋力や身体機能の低下の症候群)やフレイル(肉体や精神が脆弱な状態)といった問題につながることがあります。そのため、少量でカロリーが多く摂れる脂質をもっと摂取し、栄養状態を改善することが必要になるのです。
このように医療の現場においても、最新の栄養学の知見を取り入れ、油を積極的に活用することが求められているのです。

インタビュー1 『健康的な食生活は「主食・主菜・副菜+油」:最新の栄養学から』もあわせてご覧ください。

足立香代子 先生(あだち・かよこ)

一般社団法人臨床栄養実践協会理事長
せんぽ東京高輪病院名誉栄養管理室長

中京短期大学家政科食物栄養専攻卒業後、医療法人病院を経てせんぽ東京高輪病院(現・東京高輪病院)に勤務。2014年、一般社団法人臨床栄養実践協会を発足。長年の臨床経験を活かし、年間100回を超える講演会を通して管理栄養士の育成にも力を注ぐ。メディアへの出演も多数。主な受賞に、日本栄養改善学会賞(1994年、2001年)、厚生労働大臣賞(2003年)、日本栄養士会功労賞(2008年)、日本臨床栄養学会教育賞(2008年)ほか。主な著書に「油はすごい。」(毎日新聞出版)、「太らない間食」(文響社)、「足立香代子の実践栄養管理パーフェクトマスター」(学研めでぃかる秀潤社)、『日本一おいしい病院ごはんを目指す! せんぽ東京高輪病院500kcal台のけんこう定食」(ワニブックス)、「決定版 栄養学の基本がまるごとわかる事典」(西東社)ほか。
※プロフィールは、インタビュー当時の情報です。

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